腹腔鏡手術
腹腔鏡手術とは
お腹に4~5か所の小さな穴をあけて行う手術で、空間を作るために炭酸ガスを注入し、そこに細い管(スコープ)や処置する器具を入れてスコープのカメラ画像を見て手術を行います。内視鏡手術という病院もあります。胃、大腸、胆のうなどの臓器が主に行われます。
従来の手術(開腹手術)ではお腹に20cm~30cmの切開をしてお腹の中に直接手を入れて手術をすることから比べると、開腹手術に比べて、次の利点があります。
従来の手術(開腹手術)ではお腹に20cm~30cmの切開をしてお腹の中に直接手を入れて手術をすることから比べると、開腹手術に比べて、次の利点があります。
- 手術の傷が小さい
- 術後の痛みが軽い
- 入院期間が短い
- 早期の社会復帰が可能
- 術後の癒着が少ない
デメリットは高度な技術が必要であることが挙げられます。
鼡径ヘルニア
腹腔鏡下手術が普及するにつれて鼡径ヘルニア手術も腹腔鏡下でなされるようになりましたが、2002年~2004年頃に一時期施行件数が減少しました。 しかし、2009年の欧州ヘルニア学会ガイドラインで腹腔鏡下鼡径ヘルニア手術が推奨度Aとなってから施行件数が急速に増加してきています。
当院では2014年1月から導入しています。
これには、1)腹腔内アプローチ[TAPP]と2)腹壁外アプローチ[TEP]の2つの方法があります。前者では臍のほか2箇所の腹壁(右下腹部と左下腹部)に小さい穴を開け、腹腔鏡でみながら手術を行い、腹壁の弱い部分にメッシュ(補強のための人工繊維)を当てる方法です。一方、後者では3か所の術創を臍の1つにまとめて(単孔式)手術を完遂できます。この手術には、次のような利点があります。
これには、1)腹腔内アプローチ[TAPP]と2)腹壁外アプローチ[TEP]の2つの方法があります。前者では臍のほか2箇所の腹壁(右下腹部と左下腹部)に小さい穴を開け、腹腔鏡でみながら手術を行い、腹壁の弱い部分にメッシュ(補強のための人工繊維)を当てる方法です。一方、後者では3か所の術創を臍の1つにまとめて(単孔式)手術を完遂できます。この手術には、次のような利点があります。
- 傷あとが目立たない
- 手術後の痛みが少ない
- 手術当日に歩くことができ、翌日から食事がとれる
- 手術のあと2~3日で退院できる
術後再発予防のため、便通のコントロールが重要なのは従来法と同じです。
なお、過去に下腹部手術を受けたことがある方は、この手術が難しい場合があり、個別に判断が必要です。
なお、過去に下腹部手術を受けたことがある方は、この手術が難しい場合があり、個別に判断が必要です。
胆嚢摘出手術
1990年後半から日本で行われるようになりました。当院では1991年6月から導入しており、2016年11月末で累積手術例数が1700例を超えています。臍のほか3箇所の腹壁に小さい穴を開け、腹腔鏡でみながら胆嚢を切除する方法であり、次のような利点があります。
- 傷あとが目立たない
- 手術後の痛みが少ない
- 翌日から食事がとれ、歩くことができる
- 手術のあと3日で退院できる
- 手術のあと10日から2週間で全く普通の生活にもどることができる
- 術後の腸癒着症が少ない
胆石症の症状・診断・治療の説明書(PDF)のダウンロードはこちら
虫垂切除術
腹腔鏡下胆嚢摘出術が普及するにつれて虫垂切除術も腹腔鏡下でなされるようになっています。当院では2004年1月から導入し、2016年11月末で累積手術例数が100例を超えています。臍のほか2箇所の腹壁(右上腹部と左下腹部)に小さい穴を開け、腹腔鏡でみながら虫垂を切除する方法であり、次のような利点があります。
- 傷あとが目立たない
- 手術後の痛みが少ない
- 翌日~翌々日から食事がとれ、歩くことができる
- 手術のあと3~5日で退院できる
- 手術のあと10日から2週間で全く普通の生活にもどることができる
- 術後の遺残膿瘍や腸癒着症が少ない
単孔式腹腔鏡下虫垂切除術
整容的(美容的)観点から腹腔鏡下虫垂切除術を臍のみの切開創から行う単孔式手術が近年急速に広がりつつあります。当院では2012年1月から導入し、2016年11月末で累積手術例数が55例であり、現時点で腹腔鏡下虫垂切除術の半数を超えており、今後は単孔式が主体になります。臍以外の2か所の切開を行わず、臍の切開創に集中して腹腔鏡のほか2つの手術器具を挿入するため窮屈な手術になり、高度の技術を要することになりますが、炎症が軽度のものではそう難しくありません。したがって、抗生物質で炎症を治めた後に行うと成功率が高くて理想的です。理論上も術後の遺残膿瘍は起こりません。これより、次のような利点があります。
- 傷あとが目立たない
(臍は凹んでいるのでわかりにくく、傷がないに等しい) - 手術後の痛みが少ない
- 翌日から食事がとれ、歩くことができる
- 手術のあと3日で退院できる
- 手術のあと10日から2週間で全く普通の生活にもどることができる
- 術後の遺残膿瘍は認めず、腸癒着症が少ない
腹腔鏡補助下大腸切除術
1992年からまず早期癌に対して日本で行われるようになり、その後、進行癌に対してもなされるようになりました。当院では2003年7月から導入し、2016年11月末で累積手術例数が210例を超えています。臍のほか3~4箇所の腹壁に小さい穴を開け、腹腔鏡でみながら大腸を切除する方法です。胆嚢や虫垂より大きい臓器を摘出して吻合・再建するため小切開が必要ですが、その長さは開腹手術の15~20cmに比べてはるかに短く、5cm前後で済みます。これは元々腹壁などに癒着している大腸を腹腔鏡下に剥離したあとで外に取り出すことにより、最小限の皮膚切開で済ませられるからです。このため、次のような利点があります。
- 最大の傷あとでも5cm前後と小さく、他の傷あとは目立たない
- 手術後の痛みが少ない
- 翌日~翌々日から歩くことができる
- 手術後の排ガス(腸管機能回復)が1~3日であり、開腹手術より1~2日早い
- 手術の部位により、術後4~7日で食事がとれるようになる
- 手術のあと12~14日で退院できる
- 術後の腸癒着症が少ない
次に実例を提示します。腹腔鏡補助下右結腸切除術を行った方の傷あとです。右上腹部の術創から病巣を含めた腸管を切除し、吻合・再建しました。最大の術創の長さは3.5cmであり、他に径5mmの傷あとが4個みられます。通常の開腹術を行う場合は赤線のような皮膚切開になり、状況に応じて10~15cmの長さが必要です。